海外輸出の現場において、商流のコントロールを失った商品の末路
今回は、私が以前に直面した具体的なトラブル事例を記録として公開します。
日本国内で人気があった「某ベビー用品」が中国市場において、
代理店との連携ミスやメーカーの暴走によって価格破壊を起こし市場から退場を余儀なくされることとなりました。
構造的な歪みがどのように市場を崩壊させるのか、、、
実務における一つのケーススタディとして見ていただけたらと思います。
目次
- 第1章:ブランド誤認と「連携ミス」による風評被害
- 第2章:製造メーカーの直販と統制不能になる商品価格
- 第3章:実店舗への逃避と現地エージェントからの「死刑宣告」
- 総括:見えない要因と、私たちが導き出せる教訓
第1章:ブランド誤認と「連携ミス」による風評被害
事の発端は、自社のベビー用品がインバウンド需要をきっかけに中国のEC市場へ流入したことでした。
当時、現地の販売網を握る大手代理店が別ブランドの看板を使いこのベビー用品の販売を開始。
その結果、中国市場においてこの商品が「本来とは違うブランドの商品」として誤認されることになります。
このブランド誤認に加え、無許可販売を是正しようと抗議を入れたところ、
この代理店はメーカー親会社から正式に許可を得ていたことが後々になってわかります。
正規ルートにも関わらずコトを大きくしたことで、両者の間に摩擦が生じました。
複雑な契約形態や現地の商習慣を完全に把握しきれていなかったことによる、身内同士の連携ミスです。
この揉め事が現地の問屋界隈に伝わってしまった結果、
「あの商品は今、権利関係でトラブルになっているらしい」という致命的な噂が広まり、
管理ができていない商品というレッテルを貼られ市場における商品の信頼(ブランド力)が大きく毀損してしまいました。
取り扱うとややこしい事態に巻き込まれるという懸念が、最も重要な問屋界隈で発生してしまったのです。
第2章:製造メーカーの直販と、統制不能となる商品価格
問屋が取り扱いを敬遠し始めたタイミングでさらなる追撃が発生します。
商品の製造を委託していた「海外の製造工場」が、なんと同じECプラットフォーム上で販売を開始したのです。
メーカー直販による市場最安値での流通により、ただでさえ単価の動きがあやふやであった商品の市場価格は完全に崩壊しました。
問屋は利益が取れるから積極的に取り扱い、「場」というものを盛り上げます。
しかし安値となり利益が出ない商品、かつ「いわくつき」となった商品に手を出すはずがありません。
正規の流通網から見放されました。
その事態の打開策として、私たちはデザインとカラーを刷新した
「新型」を投入し現地の展示会で今後のスタンダードとして訴求を試みました。
しかし、これも悪手となります。
新型が出たことで、個人や小規模のネット店舗など非公式の出品者たちによる「旧型の在庫投げ売り」が開始。
同時に、市場には新型の非展開カラー(偽物)が出現し、さらには製造工場までもが独自のオリジナルカラーを展開し始めました。
偽物と「非公式だが本物」の製品が入り乱れ、誰も状況をコントロールできない無法地帯と化したのです。
後々から分かったことですが、実はこの大混乱の根本的な原因は、
自社商品でありながらパッケージの仕様上「私たちが明確な権利者であることを、現地の市場に対して強く証明・主張できなかったこと」かもしれません。
第3章:実店舗への逃避と、現地エージェントからの「死刑宣告」
ネット市場での価格統制を完全に諦めた私たちは、あえてターゲットを一般消費者から問屋へとシフトしました。
価格がバラバラになったネットを避け、再度問屋から土台を固め直そうとしたわけです。
まず現地の巨大な「国営小売チェーン」へ納品交渉を行い、実店舗という「場」から価格統制をやり直す計画を実行しました。
商品もリメイクし、新しくしたので過去のものとは違うということで再スタートしようとしたのです。
まず結論から。
納品自体は成功しましたが、商品は埃をかぶるだけで全く売れませんでした。
消費者にとって新旧は関係ありませんでした。
この形の商品は「ネットの方が圧倒的に安く販売している」のでそれでいい、ということです。
新しい商品を選ぶ理由はなかったと考えられますね。
国営チェーンとの交渉に立ち会った現地エージェントからの意見から、このプランが失敗であったことがひしひしと伝わってきます。
【現地エージェントからの指摘】
- 本気度の欠如: 一度市場で失敗した商品の再起であるにもかかわらず、納品価格が一般卸価格であるのはなぜか。本気で市場を取り戻す気があるなら単価を大幅に下げて納品量を増やすべきであり、覚悟が感じられない。
- 立場の誤認: 納品価格を下げるための社内稟議の材料として「現地中国の販売計画書が欲しい」と要求してきた。どちらが販売を依頼している立場なのかを理解していない。
- 根本課題からの逃避: ネット市場に戻る気配がないのは、現在EC直販を行っている製造工場と正面から揉めることを避けているだけである。
本プロジェクトの事実上の終了です。
この意見が出ながらも納品まで持っていってくれたエージェントには頭が上がりません。
総括:見えない要因と、私たちが導き出せる教訓
ここまで海外市場における一つの失敗事例を振り返りました。
そもそもなぜ、このプロジェクトは躓くことになったのか。
まず第一に、流通ルートを完全に把握・統制できていなかったことが挙げられます。
重ねて商品の権利関係を明確に証明できなかったこと。
これにより代理店や委託先工場による共食いを引き起こす最大の引き金となりました。
もちろんビジネスにおける失敗の原因がこれらだけとは限らず、私たちが当時把握しきれなかった現地の商習慣の違いや、目に見えない外的要因も複雑に絡み合っていたことと思います。
しかし、この経験を通して一つだけ言えることがあるとすれば、海外市場において
「自分たちでコントロールしない商流」はあり得ず、また「他者のプラットフォーム」に依存することは、時に思わぬ致命傷に至る可能性のあるリスクを孕んでいるということです。
個人であれ自社であれ、見知らぬ市場で生き残るための第一歩は
「他者に依存しすぎず、自ら現地の一次情報を取得し、少なくとも自分の足元だけはコントロール可能な状態にしておくこと」であると思います。
攻めるよりも「守ること」「守れていること」が重要です。
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