今回は、私が以前に直面した具体的なトラブル事例を記録として公開します。

日本国内で人気のあった「某ベビー用品」が中国市場において、代理店との連携ミスや委託先製造工場の暴走によって価格崩壊を起こし、最終的に市場からの退場を余儀なくされるまでの経緯です。

当時の判断のどこに誤りがあったのか、どの段階で打てた手があったのか——今もって明確な答えが出ていない部分もあります。ただ、実務における一つのケーススタディとして、同じ道を歩もうとしている方の参考になれば幸いです。

ブランド誤認と連携ミスが招いた風評被害

事の発端は、自社のベビー用品がインバウンド需要をきっかけに中国のEC市場へ自然に流入したことでした。

現地の販売網を握る大手代理店が別ブランドの看板を使い、このベビー用品の販売を開始していたことが発覚します。中国市場においてこの商品が「本来とは違うブランドの商品」として誤認されている状態でした。

ブランド誤認を問題視した私たちが無許可販売の是正を求めて抗議を入れたところ、後々になって、この代理店はメーカー親会社から正式に許可を得ていたことが判明します。正規ルートであるにもかかわらず、私たちが事態を大きくしてしまったわけです。

複雑な契約形態や現地の商習慣を完全に把握しきれていなかった、身内同士の連携ミスでした。

この揉め事が現地の問屋界隈に伝わってしまった結果、「あの商品は今、権利関係でトラブルになっているらしい」という致命的な噂が広まります。管理ができていない商品というレッテルを貼られ、市場における商品の信頼(ブランド力)が大きく毀損しました。

取り扱うとややこしい事態に巻き込まれるかもしれない——そうした懸念が、流通の要となる問屋界隈に広がってしまったのです。

→ 代理店・販売パートナーとの契約リスクについては、海外進出における「パートナー探し」という致命的な罠でも詳しくお伝えしています。

製造工場の直販参入と、統制不能になる市場価格

問屋が取り扱いを敬遠し始めたタイミングで、さらなる追撃が発生します。商品の製造を委託していた海外の製造工場が、なんと同じECプラットフォーム上で直接販売を開始したのです。

メーカー直販による市場最安値での流通により、ただでさえ不安定になっていた商品の市場価格は完全に崩壊しました。

問屋は利益が取れるからこそ積極的に取り扱い、市場という「場」を盛り上げます。しかし、安値になり利益が出ない商品で、かつ「いわくつき」となった商品に手を出す問屋はいません。私たちの商品は正規の流通網から見放されました。

事態の打開策として、私たちはデザインとカラーを刷新した「新型」を投入し、現地の展示会で今後のスタンダードとして訴求を試みました。しかしこれも悪手となります。

新型が出たことで、個人や小規模のネット店舗などによる「旧型の在庫投げ売り」が一斉に始まります。同時に市場には新型の非展開カラー(偽物)が出現し、さらには製造工場までもが独自のオリジナルカラーを展開し始めました。正規品・非公式品・偽物が入り乱れ、誰も状況をコントロールできない無法地帯と化したのです。

後々から分かったことですが、この大混乱の根本的な原因の一つは、自社商品でありながらパッケージの仕様上「私たちが明確な権利者であることを、現地市場に対して強く証明・主張できなかったこと」にあったかもしれません。商標・権利の管理を後回しにしていたことのツケが、ここで一気に回ってきた形です。

→ 商流の設計と正規ルート構築の重要性については、中国に日本製品を輸出する前に知るべき流通構造|並行ルートの罠と正規ルート設計をご参照ください。

実店舗への逃避と、現地エージェントからの「死刑宣告」

ネット市場での価格統制を完全に諦めた私たちは、ターゲットを一般消費者から問屋へとシフトしました。価格がバラバラになったネットを避け、実店舗という「場」から価格統制をやり直す計画です。

現地の巨大な国営小売チェーンへの納品交渉を行い、リメイクした新商品で改めてのスタートを図りました。

結論から言います。納品自体は成功しましたが、商品は埃をかぶるだけで全く売れませんでした。

消費者にとって新旧は関係ありませんでした。「この形の商品はネットの方が圧倒的に安い」——それ以上でも以下でもありませんでした。消費者が実店舗の新商品を選ぶ理由は、何もなかったのです。

国営チェーンとの交渉に立ち会った現地エージェントからの指摘が、このプランの失敗を端的に言い表していました。

  • 本気度の欠如:一度市場で失敗した商品の再起であるにもかかわらず、納品価格が一般卸価格であるのはなぜか。本気で市場を取り戻す気があるなら単価を大幅に下げて納品量を増やすべきであり、覚悟が感じられない。
  • 立場の誤認:納品価格を下げるための社内稟議の材料として「現地中国の販売計画書が欲しい」と要求してきた。どちらが販売を依頼している立場なのかを理解していない。
  • 根本課題からの逃避:ネット市場に戻る気配がないのは、EC直販を行っている製造工場と正面から対峙することを避けているだけである。

本プロジェクトの事実上の終了を告げる言葉でした。厳しい状況の中でも最後まで納品まで動いてくれたエージェントには、今も頭が上がりません。

総括:この失敗から導き出せる教訓

ここまで、一つの失敗事例を振り返りました。このプロジェクトがなぜ躓いたのか、原因をあらためて整理します。

第一に、流通ルートを完全に把握・統制できていなかったこと。第二に、商品の権利関係を現地市場に対して明確に証明できなかったこと。この2点が、代理店や委託先工場による「共食い」を引き起こす最大の引き金になりました。

もちろんビジネスの失敗の原因がこれらだけとは限りません。当時把握しきれなかった現地の商習慣の違いや、目に見えない外的要因も複雑に絡み合っていたと思います。

ただ、この経験を通して一つだけ言えることがあるとすれば、海外市場において「自分たちがコントロールしていない商流」は遅かれ早かれ崩壊するということです。他者のプラットフォームや代理店の善意に依存することは、思わぬ致命傷につながるリスクを常に孕んでいます。

個人であれ法人であれ、見知らぬ市場で生き残るための第一歩は、「他者に依存しすぎず、自ら一次情報を取得し、少なくとも自分の足元だけはコントロール可能な状態にしておくこと」だと思います。攻めるよりも先に「守れていること」を確認する——この順番が、海外展開を長続きさせる根幹です。

→ 中国市場で個人プレイヤーが生き残るための論理については、越境ECで長期的に稼ぎ続けるセラーの共通点|正規ルート・参入障壁・リスク分散の3つの原則もあわせてご覧ください。

→ 中国市場そのものへの参入リスクの全体像については、個人プレイヤーが「中国市場」を避けるべき絶対的な理由でも整理しています。



関連記事