これまでの記事では、中国ECにおける広告費の壁やSNS動線の複雑さを整理してきました。今回はさらに一歩踏み込んで、税金と手数料を差し引いたあと、実際に手元にいくら残るのかを数字で追ってみます。

広告費だけでも相当なコストが発生する中国ECで、そこに税金と手数料が加わると利益はどこまで削られるのか。日本貿易振興機構(JETRO)大連事務所が公開している中国EC市場レポートのデータをもとに、具体的な試算をしていきます。

「売上」と「利益」は別物である

売上はあるが利益が残らないビジネスのイメージ

中国の越境ECには「越境EC総合税」という税制が適用されます。
これは通常の関税とは別の仕組みで、輸入増値税と消費税を合算した金額の70%を優遇税率として徴収するというものです。(1回の取引が5,000元以内、個人の年間合計取引が2万6,000元以内の場合に適用されます。)

商品カテゴリーによって、実際の税率は次のように変わります。

  • 食品・日用品・家電:9.1%
  • 高級化粧品(フェイスマスク15元/枚以上、香水・スキンケア10元/ml以上など):23.1%
  • 酒類(ワインの場合):17.9%

売上の1〜2割が、この時点で確定で消えます。ここにプラットフォームの手数料、国際送料、広告費が積み重なっていきます。

日本で1,000円の商品を中国で売った場合の試算

中国越境ECのコスト構造を試算するイメージ

JETROの調査によると、中国での適正な販売価格は、日本の小売価格に対して15%〜30%程度の上乗せが最も消費者に受け入れられやすい水準とされています。
ここでは仮に、日本で1,000円の商品を中国で1,300円(30%上乗せ)で販売するケースを考えます。

差額は300円です。
ここから何が引かれていくのかを、順番に見ていきます。

項目金額・目安
中国での販売価格1,300円
日本価格との差額300円
越境EC総合税(9.1%の場合)約118円
差額から税金を引いた残り約182円
プラットフォーム手数料・代理商マージン契約形態により変動
国際送料重量・梱包により変動
広告費(検索結果に表示されるための必須コスト)投じなければ露出自体が発生しない
手元に残る利益数十円、あるいはマイナス

差額300円から税金の118円を引いた時点で、残りは182円です。

ここにプラットフォーム手数料と国際送料、そして広告費が乗ってくることを考えると、
手元に残る金額が数十円、あるいはマイナスになるケースが珍しくないという実感は決して大げさな表現ではありません。
「売上が立っているのに利益が残らない」という状況は、このコスト構造から機械的に生まれます。

※販売手数料ではなく、プラットフォームの使用料が発生するパターンもありえます。

なぜ「自社出店」という前提が崩れるのか

ここまでの試算は、天猫国際(Tmall Global)や京東国際(JD Worldwide)のような大手モールではなく、主に個人や中小規模の店舗にフォーカスしたプラットフォームを前提にしています。(個人や小規模メーカーがこれらのモールへ単独で出店するのは現実的ではありません。)
現在では不要となりましたが、Tmallの出店には日本円にして100万円近いの保証金が必要とされていた時期があり、必然的に大手企業であることや自社ブランドの保有が出店条件に含まれていました。

このため、多くの個人事業主は「代理商」や運営代行会社を通じて商品を流通させる形を取ります。この場合、代理商のマージンがさらに上乗せされるため、先ほどの試算よりもさらに手残りが薄くなるケースが一般的です。

このコスト構造に耐えて利益を出すには、小売店から仕入れて転売するレベルでは成立しません。メーカーから直接仕入れる正規ルートを持ち、仕入れ原価を大幅に下げることが必須条件になります。
 →個人でも構築できる正規仕入れルートの作り方については、こちらの記事を参照してください。

利益を「感覚」ではなく「数字」で管理する

ここまで見てきた通り、中国ECの利益率は非常に薄く時にはマイナスにもなり得ます。
この薄い利益を守るために必要なのは、勘や感覚での経営判断ではなく、経費と利益を正確に記録し続ける仕組みです。

とくに、総合税・送料・広告費・代理商マージンなど支出項目が多岐にわたる越境ECでは、月々の実際の利益を自動で可視化できるツールは必須と言えるでしょう。
現在の立ち位置もわからないまま、先行きの見通しを立てることほどリスキーなことはありません。

売上の数字だけを追いかけるのではなく、コストを引いたあとに何が残るのかを毎月見て把握できる状態を作ることが、薄利多売になりがちな越境ECで生き残るための最低条件です。


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「手残りの利益」で市場を選ぶ

競争の激しい中国市場を避けブルーオーシャン戦略をとるイメージ

ShopeeやeBayでは、税制の仕組みが国によって異なりますが、購入者負担が明確なケースが多く、価格設定の自由度も中国ECと比べて高い傾向があります。

売上の数字ではなく、コストを引いた後に手元に残る金額で市場を評価することも個人セラーにとって重要な判断軸です。
市場の規模よりも、自分のコスト構造で利益が出るかどうかを先に計算してください。ShopeeやeBayでの具体的な戦略については、こちらの記事で整理しています。

参考:日本貿易振興機構(JETRO)大連事務所「中国EC市場と活用方法」(2021年6月)


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