SEOより動画が売れる時代に越境ECセラーが知っておくべきこと|ディスカバリーコマースへの移行
「SEOで集客する」時代から「ディスカバリーコマース(発見型EC)」への移行が、越境ECの現場で静かに始まっています。
TikTok ShopがAmazonを脅かす仕組みと、日本人セラーが有利な理由をここまでの記事で整理してきました。今回はその変化が、集客戦略全体に何をもたらすのかを考えます。
結論を先に申し上げると、SEOは終わりません。
ただし、SEOだけで売れる時代は終わりつつあります。
本稿ではその根拠を、米国の調査データとこの変化を5年早く経験した中国市場の実数で確認し、最後に個人セラーが今日から動ける手順に落とし込みます。
「検索してから買う」という行動が、数字の上で痩せ始めた

まず、足元で起きていることをデータで確認します。
米国の調査機関Pew Research Centerが2025年7月に公表した調査(2025年3月・米国成人900人の閲覧行動を分析)によれば、GoogleのAI要約(AI Overviews)が表示された検索でその後に通常のリンクをクリックした人は、わずか8%でした。
AI要約が出なかった検索では15%。要約が一つ挟まるだけで、サイトへのクリックはほぼ半分に落ちています。(Pew Research Center, 2025)
さらに、AI要約内に置かれた出典リンクがクリックされた割合は約1%です。
検索した人は答えだけを受け取り、ウェブサイトまで渡ってこない。SEOの大前提だった「検索結果からのクリック」という蛇口そのものが、細り始めているということです。
加えて、若い世代は検索の入口すら変えています。
Googleの検索部門の上級幹部が2022年の時点で、「米国の若年層の約4割は、昼食の店を探すときにGoogle検索や地図ではなくTikTokやInstagramを開く」と自ら明かしていました。
検索窓に言葉を打ち込む前に、フィードの中で「欲しい」が形成される。これが本稿の主題である購買行動の変化です。
この変化は、中国では5年前に始まっていた
ディスカバリーコマースという言葉は日本ではまだ聞き慣れませんが、中国ではすでに一つの産業として完成しています。ショート動画アプリの抖音(Douyin・中国版TikTok)は、2021年に「興趣電商(興味EC)」という概念を打ち出しました。
ユーザーが探す前に、アルゴリズムが興味を推定して商品と出会わせる。TikTok Shopの原型です。
結果は数字に出ています。
ジェトロのビジネス短信によれば、抖音の2024年の流通取引総額は前年比30%増の約3兆5,000億元(約73兆円)。首位の淘宝・天猫(約8兆元)にはまだ届かないものの、老舗の京東(約3兆元)を追い抜き、業界3位に浮上しました。
「検索して買う」ECの牙城に、「見かけて買う」ECがわずか数年で食い込んだ格好です。
私がこの流れを一過性の流行と見ていないのは、その原型を10年以上前に、日本の店頭で見ているからです。
まだ「爆買い」という言葉が広まる前、2015年より前のことでした。中国の消費者向けに代理購入(代購)をするバイヤーが、日本の実店舗からライブ配信をしていたのです。使っていたのはライブコマース専用のアプリではなく、微信(Weixin・中国版WeChat)で呼び方は当時から「ライブ」でした。画面の向こうの視聴者と話しながら商品を手に取って映し、欲しい人に名乗り出てもらい、頼まれたものを買って後から発送する。仕組みとしてはほぼアナログですが、これがよく機能していました。
特に人気だったのがベビー用品です。ベビーシューズはデザインの可愛いものが多いうえ、在庫のサイズや縫製の質は、実物を画面に映してもらえばその場で確認できます。そしてもう一つ、今と決定的に違う点がありました。配信を見られるのは不特定多数ではなく、そのバイヤーのフォロワー——ファンや友人——だけだったことです。つまり最初期のライブ購入は、信頼で閉じた輪の中の商いでした。淘宝にライブコマース機能が載る2016年より前に、「信頼できる人の画面越しに実物を見て、その場で頼む」という買い方が先に出来上がっていた。プラットフォームが後から加えたのは、この閉じた輪をアルゴリズムで不特定多数に開く「発見」の層だったわけです。
現在ほぼ完成系として育った、この巨大市場に個人がそのまま乗り込めるかは別の問題です。
中国国内のライブコマースには、KOL費用と返品構造という個人には越えられない壁があり、中国SNSで個人が売ろうとしたときに起きることも別の記事で書いたとおりです。
私たちが学ぶべきは市場そのものではなく「購買行動はこの順序で変わっていく」という先行事例のほうです。
購買行動の変化が越境ECセラーに意味すること
TikTok Shopの台頭が示したのは、「人はアルゴリズムが提案したものを受動的に買う」という購買行動です。
Amazonで型番を検索して購入するのは、目的が決まっている一部の層だけです。
これからの主要購買層であるZ世代・α世代は、検索窓に文字を打ち込む前に、動画のフィードの中で「欲しい」という感情を形成しています。
つまりこれからの集客は、「暇つぶしで動画を見ている人」の脳内に購買意欲を作りに行く戦いです。ここで機能する武器は、緻密なキーワード設定よりも、「感情を動かす短い動画の構成力」に移りつつあります。
静止画・テキスト販売から動画販売への移行
かつて電話営業がメール営業に変わり、店舗販売がネット販売に変わったように、今は「静止画とテキストだけの販売」から「動画販売」への転換が起きています。
どれほど丁寧な商品説明文を書いても、どれほど品質にこだわった写真を撮っても、アルゴリズムが優先するコンテンツ形式が変わればその努力は届かない場所に向いています。
この流れはTikTokに限りません。
東南アジアのShopeeもアプリ内に短尺動画のフィード(Shopee Video)を組み込み、動画コンテンツを優遇する方向に動いています。プラットフォーム側が「次はこの形式を評価する」と宣言しているに等しい変化です。
「SEOが終わった」ではなく「SEOだけでは不十分になった」

ここで重要なのは、SEOが完全に無意味になったわけではない、という点です。
検索意図を持って情報を探す層は今後も存在します。ブログやEC商品ページのSEO対策は、その層を取り込むために引き続き有効です。
これを裏付ける面白い数字があります。
発見型ECの本家である抖音ですら、先ほどのGMVの内訳を見ると約40%は検索やバナー経由の購入なのです。動画で商品を知った人が、後日あらためて検索して買いに戻ってくる。「発見」と「検索」は対立するのではなく、認知と刈り取りの分業として共存しています。
問題は、「SEOだけをやっていれば売上が伸びる」という前提が崩れつつあることです。
検索流入に加えて、動画による発見という別の集客動線を持つセラーが優位になる。
さらにその先には、ChatGPTのショッピングアシスタントのように、AIとの対話が購買の入口になる動線も見え始めています。これからのセラーが持つべきは一本の太い動線ではなく、複数の動線です。
個人セラーが今日からできる三つのこと
1. 売りたい市場のフィードを「現地の見え方」で眺める
動画を作る前に、まず見ることです。
いま現地のフィードで何が流れ、どんな商品にコメントが付いているのか。
ここで一つ注意があります。日本からアクセスした画面は、現地の消費者が見ている画面と同じではありません。検索結果もおすすめ表示も、アクセス元によって変わります。
日本からでは市場の実態が半分も見えていない理由で書いたとおり、リサーチの精度は接続環境で決まります。
どのサービスを選ぶかの基準は、越境EC・海外輸出に使えるVPNおすすめ4選に整理しています。
2. すでに持っている資産を、動画に変換する
ゼロから動画クリエイターになる必要はありません。
これまで丁寧に書いてきた商品説明文は、そのまま動画の台本になります。購入者レビューで繰り返し褒められている点は、そのまま動画の企画になります。
前回の記事で整理したとおり、TikTok Shopで求められているのはダンスではなく、商品の機能美や品質を淡々と伝える映像です。スマホ1台で撮れる範囲で、まず1本。それが最初の一歩です。
3. 検索の受け皿を捨てない
動画で商品を知った人は、買う前にその名前を検索します。
そのとき受け皿になるのは、結局、作り込まれた商品ページです。抖音のGMVの約4割が検索やバナー経由だったことを思い出してください。動画への移行とは、SEOを捨てることではありません。SEOの役割を「入口」から「受け皿」へ配置転換することです。
結論:変化を把握した上で、自分のリソースで動ける範囲から始める

整理します。
米国では検索結果からのクリックが半分に痩せ、中国では「見かけて買う」ECが検索ECの一角をすでに崩しました。同じ変化が、TikTok Shopという形で私たちの市場にも到達しています。
ただ、個人セラーが明日から動画チームを組む必要はありません。
順序は三つだけです。現地のフィードを現地の見え方で見る。手元の資産から1本作る。検索の受け皿を維持する。これだけで、変化に押し流される側ではなく、変化を使う側に立てます。
そして、どのプラットフォームが主流になっても、生き残るセラーの条件は変わりません。売上より先に守りを固める考え方は、越境ECで生き残るセラーの条件で整理しています。変化は、先に気づいて小さく動いた人から順に報われます。
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