世界150カ国以上で展開し、2024年の売上高が推計約7.4兆円に達するSHEIN(シーイン)。世界アパレル市場シェアではZARAやH&Mを抜いて3位に躍進し、ショッピングアプリのダウンロード数では世界1位を記録した巨大企業です。

ところが、このSHEINを自国・中国の一般消費者はほとんど知りません。

この一見奇妙な事実の背景には、個人セラーが越境ECを考えるうえで参考になる、シンプルで合理的な論理が隠れています。


世界3位の規模を持つSHEINを、中国人だけが買えない

激しい競争により消耗戦となっているレッドオーシャン市場で闘うブルのイメージ

中国国内からはSHEINのサイトへのアクセスが遮断されており、購入はおろかアプリのダウンロードもできない状態です。

私が現地の取引先に確認したところ、「希音(Xiyin)は工場関係者の間で話題になる輸出専門の会社で、一般消費者にはまったく関係ない。普段はタオバオを使う」という反応でした。年間売上高が推計7.4兆円にのぼり、ZARAやユニクロを販売規模で上回る企業が、14億人の自国市場を完全に切り捨てているのです。

さらに、SHEINは2022年にグローバル本社をシンガポールへ移転しています。これは単なる拠点変更ではなく、中国企業というレッテルがもたらす地政学的リスクを意識した「脱中国」戦略の一環とも見られています。この点については、SHEINのシンガポール本社移転が示す地政学リスクと日本製品の優位性でより詳しく整理しています。


なぜ14億人の市場を自ら切り捨てたのか

中国国内の巨大な人口を表すアジアの混雑した通りの群衆

理由はシンプルです。中国国内のEC市場での競争が、すでに限界まで激化していたからです。

タオバオ・天猫(アリババ系)、ピンドゥオドゥオ、JD.com(京東)といった巨大プラットフォームが熾烈な価格競争を繰り広げる中国国内では、いかに強力な企業であっても利益を出しにくい構造になっています。国内で1円単位の消耗戦を続けるより、購買力の高い海外市場でより高い価格で販売する方が利益率も規模も大きくなる——SHEINはこの計算をした結果、国内市場を切り捨てて海外に全振りするという選択をしたのです。

その結果が、2024年の世界アパレル市場シェア3位(GlobalData調べ)という実績です。前年比シェア伸び率はZARAの0.05ポイント、H&Mの横ばいを大きく上回る0.24ポイント増と、急速に存在感を高めています。

なお、SHEINが抱える問題点(安全性・知的財産・環境規制)については、なぜSHEINは世界各国で問題視されているのかでまとめていますので、あわせてご参照ください。


SHEINの戦略を「日本版」に置き換えて考える

世界地図の上に置かれたコンパスとグローバル展開のイメージ

人口減少が続く日本の国内市場でメルカリやヤフオクのパイを奪い合うことと、中国最大手が見切りをつけた国内競争に留まることは、構造的に同じ問題を抱えています。

SHEINのやり方には問題点も多くあります。しかし「競争の激しい国内市場を出て、購買力の高い海外へ向かう」という方向性の論理そのものは、個人セラーにも適用できます。

むしろ、日本の個人セラーにはSHEINが持てない強みがあります。日本の消費者向けに作られた製品が備える安全基準・品質・信頼性は、SHEINが参入できない価値です。韓国基準の229倍のフタル酸エステルが検出された靴が販売実績を持つSHEINと、日本の品質管理基準をクリアした製品とでは、同じ「安い」という土俵では戦いません。

Shopeeや各国のマーケットプレイスで日本製品を扱う越境ECへの具体的な移行ステップについては、越境ECに参入した企業の5割が売上1%未満である理由と個人セラーの生存戦略で整理しています。


結論:SHEINが計算したことを、小さな規模でやる

SHEINが14億人の市場を切り捨てた判断は、感情ではなく合理性によるものでした。縮小傾向にある国内市場でパイを奪い合うより、成長する海外市場で自分の強みを活かす方が利益に近い——この計算式は、規模の大小に関わらず同じように機能します。

ただし、海外市場に向かうにあたって「どこで売るか」の選択は慎重に行う必要があります。SHEINが避けた中国国内市場に個人で乗り込もうとすること自体、別のリスクをはらんでいます。

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越境ECを始める前に知っておくべき海外市場の現実|日本の常識が通用しない理由


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