越境ECに興味を持っている方が最初に抱く期待は、だいたい共通しています。

「日本のものは品質が高いから海外でも売れるはず」
「円安が続いているうちに外貨を稼ぎたい」——どちらも理屈として間違っていません。

しかし、Shopee Japan(2024年)が越境ECで失敗経験を持つ企業100社に調査したところ、失敗のタイミングは開始から半年以内が約7割に集中していました。
サービス立ち上げ直後23%、1〜3ヶ月26%、3〜6ヶ月22%という数字が示すのは「やってみてから気づく」ではなく「始める前の設計段階に問題がある」という構造的な課題です。

本記事では、その「設計段階の落とし穴」を3つに整理し、それぞれを避けるための考え方をお伝えします。私自身が20年の貿易実務の中で見聞きしてきたことも交えながら説明します。


前提として:日本市場は「例外的に守られた環境」だった

温室のように守られた安全な場所

越境ECで最初に理解しておく必要があるのは、日本の国内市場がいかに特殊かという点です。

国内のせどりや転売で利益が出せていた方の多くは、「自分の目利き力」に自信を持っています。それは本当のことかもしれませんが、もうひとつの理由として「日本市場の構造的な安定性」があることも押さえておく必要があります。

  • メーカーと小売の流通ルートが明確で、偽物が棚に並ぶことが稀である
  • 「定価」という共通認識が流通全体で守られている
  • 消費者が価格以外の要素(ブランド・接客・保証)に対価を払う文化がある

海外市場、とりわけShopeeやeBayのようなオープンなプラットフォームには、こうした前提がほとんどありません。

私の現地取引先が言っていたことを正確に書くと「日本のセラーは丁寧で正直だが、この市場ではシンプルに安い方が選ばれる。品質の差は、価格の差が大きければ見えなくなる」でした。

この前提を理解した上で、具体的な落とし穴を見ていきましょう。

なお、国内市場が飽和に向かう構造的な理由については「転売が稼げなくなる構造的な理由」にまとめています。


落とし穴①:「売れそうな商品」を選ぶと価格競争に直行する

同じような商品が大量に並び価格競争が起きている市場の棚

越境ECで失敗した企業が挙げた理由のうち、最も多かったのが「商品選定の失敗」(40%)です。(Shopee Japan調査、2024年)

「日本で人気のアニメグッズや化粧品を海外で売ろう」というアプローチは、出発点としては自然な発想です。しかしこれらはすでに多くのセラーが目をつけており、海外のデータ分析ツールで需要が可視化されています。

あなたが商品ページを立ち上げて少し売れ始めると、次のことが起きます。
→現地の有力セラーや独自ルートを持つ業者が、同じ商品をより安く出品してきます。対抗して値下げすれば利益は消え、値下げしなければ埋もれます。日本で流行している商品ほどこのサイクルが早く、最初に利益が出た感覚が「参入できる」という誤解に繋がりやすいのです。

では、競合の少ないニッチ商品を探せばよいのでしょうか。

方向性は正しいのですが、海外の価格比較・需要分析ツールは優秀です。売れ行きがよくなると即座に競合が参入してきます。
「先行者利益」が機能する期間は、思っているよりずっと短い市場です。


落とし穴②:日本の感覚で設定した価格は「高い」か「安すぎる」のどちらかになる

失敗理由の2番目に多いのが「価格設定の失敗」(32%)です。

日本の感覚で「原価+利益」を計算して価格を設定すると、2種類の問題が起きます。
ひとつは、現地の競合より高くなりすぎて選ばれないこと。
もうひとつは、物流費・手数料・為替変動・返品コストを見落として、売れても手元に残らないことです。

越境ECでは、国内販売に比べて以下のコストが追加されます。

  • 国際配送費:商品単価に対する比率が想定より高くなりやすい。軽い・小さい商品ほど配送コストの比率が膨らむ
  • プラットフォーム手数料:Shopeeであれば出品・決済・送金の各段階で手数料が発生する
  • 為替変動リスク:受け取りから換金までの間に円高に振れると、想定利益が消える
  • 返品・クレーム対応コスト:言語・文化・物流の違いにより、国内より処理コストが大きくなる

これらを事前に積み上げた「原価計算」なしに参入すると、最初の数ヶ月は売れているように見えて実際は赤字、という状態が起きやすくなります。


落とし穴③:出品しても「存在していない」のと同じ状態になる

失敗理由として最も多くの企業が挙げたのが、「認知獲得の失敗」(46%)です。これが最多であることは重要な示唆を含んでいます。

どれだけ良い商品を適切な価格で出品しても、そのページに誰も来なければ売れません。
海外の購買者は、日本のように「ブランドを検索して買いに来る」という行動パターンを必ずしも取りません。SNS・インフルエンサー・プラットフォーム内の広告を通じて「初めて知って買う」という経路が多い市場では、「出品=発見される」ではないのです。

特に無名の日本製品を扱う場合、「日本製だから信頼できる」という認識はターゲット市場によって大きく異なります。

信頼性そのものも改めて伝える必要があります。


3つの落とし穴に共通する「根本的な原因」

荒れた海でコントロールを失い漂流する小舟

商品選定・価格設定・認知獲得——
この3つの失敗に共通しているのは、「自分が出せるものを、出したい方法で出す」という国内販売の感覚をそのまま持ち込んでいることです。

国内せどりは「良い商品を見つけて、適切な価格で出せば売れる」という構造が成立しやすい市場でした。越境ECでは「誰に・何を・どこで・どう届けるか」という設計が先に来ます。商品を揃えてから考えるのではなく、ターゲット市場の購買行動・競合構造・流通経路を理解してから参入する順序が求められます。

この「設計から入る」という考え方の核心にあるのが、正規の販売ルートを最初に確保するという発想です。転売的な参入とは根本的に異なるアプローチで、価格競争に巻き込まれにくく、プラットフォームのポリシー変更にも強い構造を作ることができます。

具体的な正規ルートの構築については、個人でもできる越境ECの正規仕入れルートとはで整理しています。


まとめ:越境ECを始める前に設計しておくべき3点

本記事で整理した内容を簡潔にまとめます。

  1. 商品選定:「日本で売れているもの」は競合がすでに多い。出品後に価格競争が始まる商品かどうかを事前に調べる
  2. 価格設定:国際配送費・手数料・為替リスク・返品コストを積み上げた原価計算を先に行う。感覚値で設定しない
  3. 認知獲得:「出品すれば売れる」は通用しない。ターゲット市場でどう見つけてもらうかの導線設計を参入前に描く

越境ECは、正しく設計して入れば国内市場より利益の出やすい構造があります。逆に言えば、設計なしに参入すると半年以内に上記3つのどれかで詰まります。先に構造を理解して準備を整えることが、遠回りのようで最も確実な道です。


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