中国向け越境ECの3つの落とし穴|抖音とREDの違い・悦己消費・ステマ規制
中国向け越境ECには、日本の感覚のままでは見えない3つの落とし穴があります。
SNSプラットフォームの選び方、商品選定の基準、そしてステマ規制という法律の壁です。前回は世界の市場規模というマクロな視点で日本市場の限界を整理しました。今回は、もう一段具体的な「戦い方」の話をします。
多くの個人セラーが海外輸出でつまずく原因は、プラットフォームの特性とトレンドの質を確かめないまま参入することにあります。
日本のメルカリのように「出品しておけば誰かが見つけてくれる」市場は中国には存在しません。なぜ存在しないのかという構造の話は、中国SNSで個人が売ろうとすると何が起きるかで書きました。
本稿はその手前にある、参入前に知っておくべきルールの整理です。
1. 抖音とRED:アルゴリズムが違えば、勝てる商品も違う
最初に一つ、混同されやすい事実の確認です。
中国国内で使われているのはTikTokではなく「抖音(Douyin)」です。運営元は同じバイトダンスですが、アプリもコンテンツも別物で、日本のTikTokに投稿しても中国の消費者には届きません。
その上で、中国の二大SNSはアルゴリズムの設計思想がまったく違います。
- 抖音(Douyin):閲覧履歴に基づく推薦フィード型。
ユーザーが探す前に、アルゴリズムが商品と出会わせる「発見型」の世界です。この仕組みが購買行動をどう変えたかは、ディスカバリーコマースの記事で整理したとおりです。エンタメ性や視覚的なインパクトのない商品は、フィードの中で素通りされます。 - RED(小紅書):検索とレビューが中心。
一般ユーザーの口コミが比較的平等に評価される場で、「種草(ジョンツァオ)」——欲しい気持ちの種を植える、という口コミ文化の発祥地です。この言葉は後述する法規制の話で、もう一度出てきます。
この違いから、出すべき場所は商品によって決まります。
・無名でも品質に根拠のある日本製品なら、検索と口コミで評価が積み上がるRED。
・ひと目で伝わる視覚的な強さがある商品なら抖音。
場所選びを間違えると、商品力とは無関係に埋もれます。
なお、中国ECには口コミ文化以外にも「三単合一」など日本と異なる構造があり、その内容に関しては記事「中国ECで出品しても売れない仕組み」で詳しく扱っています。
2. 商品選定:Z世代の「悦己消費」をデータで見る

次に商品選定です。
「日本で人気だから」という理由だけの仕入れは、中国では機能しにくくなっています。
いま中国の若年層の消費を動かしているキーワードが「悦己(ユエジー)消費」——他人にどう見られるかではなく、自分自身を満足させるための消費です。
これは雰囲気の話ではなく、数字が出ています。
JETROの分析によれば、2024年のダブルイレブン商戦ではZ世代の参加率が90.6%に達し、その約4割が「情緒的な価値や趣味のための消費」を消費の目的に挙げています(ジェトロ 地域・分析レポート)。
個別の市場で見ると、方向はさらにはっきりします。
ペット産業は2023年に市場規模2,500億元(約5.2兆円)へ達し、直近5年の年平均成長率は13%を超えました。(ジェトロ「消費低迷下で沸騰する中国ペットビジネス」)
消費全体が低迷する中で、、、です。少子化と単身世帯の増加で、ペットが「家族」になった。キャンプや釣りなどのアウトドアも、悦己消費の代表カテゴリとして伸びています。
共通しているのは「誰の、どんな孤独やストレスを癒やすための道具なのか」まで説明できる商品だけが動いている、ということです。
漠然とした「良い商品」は、この市場では選ばれる理由を持ちません。
日本国内のイメージではコロナ禍となり、一人でできる点や密にならないという利点からキャンプや釣りなどが注目を集めることとなりましたが、中国国内ではコロナ禍以前からアウトドアの熱が高まっており、ロードバイク(自転車)や釣りが人気となっていました。
釣りに関しては日本へのツアーへ組み込まれるほど注目が集まっていましたので、その頃から悦己消費への兆しはあったのかもしれませんね。
3. ステマ規制:「体験の共有」も広告と明示する義務

そして最後が法律の壁です。
中国では2023年5月に「インターネット広告管理弁法」が施行され、ステルスマーケティングへの規制が明文化されました。
核心は第9条です。
知識の紹介、体験の共有、消費のレビューといった形式で商品を宣伝し、そこに購入リンクなどを付ける場合、目立つ位置に「広告」と明示しなければなりません。(ジェトロ「『ステマ』も規制へ、ウェブプロモーションにおける留意点」)
つまり、REDの文化として先ほど触れた「種草」——体験の共有を装った宣伝——が、まさに規制の標的になったということです。2024年8月には広告識別性に関する法執行ガイドラインも施行され、運用は強化される方向にあります。
実際に、インフルエンサーがREDや抖音で「体験の共有」として商品を発信し、広告と表示していなかった事案で、関わったマーケティング会社が2万元の罰金処分を受けた例が報告されています。金額の大小ではなく、「体験談のふりをした宣伝」が行政処分の対象として実際に執行されている、という事実が重要です。
付け加えると、これは中国だけの話ではありません。
日本でも2023年10月から景品表示法によるステマ規制が始まっています。SNSやYouTubeなどでも皆さんも一度は目にしていると思います。(「これはPRです」や「PRを含みます」といった注意表記)
「広告であることを隠した宣伝」は、日中どちらの市場でも通用しなくなりました。
越境ECであっても、中国の消費者に届く以上、中国の法律が適用される可能性があります。
なお中国ビジネスの法律の壁はステマ規制だけではなく、商標にも独特のリスクがあります。中国の商標登録リスクもあわせてお読みください。
結論:ルールを知る手間が、そのまま参入障壁になる
整理します。
・プラットフォームはアルゴリズムで選ぶ。
・商品は悦己消費のデータで選ぶ。
・プロモーションは広告表示のルールを守る。
どれも特別な才能ではなく、調べれば分かることです。
しかし調べない人が大多数です。
だからこそ、この手間はコストではなく参入障壁として機能します。ルールを学ぶ労力を惜しむ参入者から順に退場していく市場では、先に学んだ側が守られる構図になっています。
一方で、この記事を読んで「中国SNSの運用まで手が回らない」と感じた方は、その感覚も正しいと思います。
個人のリソースで現実的に戦える市場から始めるという選択肢については、個人がShopeeやeBayで生き残る条件で整理しています。市場を知った上で選ぶのと、知らずに避けるのとでは、同じ「参入しない」でも意味がまったく違います。
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