中国から逃げる日本・増資するドイツ|その差が示す越境EC参入の本質
日本企業が対中直接投資を減らし続ける一方、ドイツ企業は中国への投資を増やしています。同じデータを見ながら、なぜ真逆の判断が生まれるのでしょうか。
JETROが2024年3月に公表した「2023年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、中国で既存ビジネスの拡充や新規ビジネスを検討する日本企業の割合は33.9%と、2013年以降で最低水準に落ち込みました。
ところが同じ時期、欧州系企業、とりわけドイツ企業の対中投資は勢いを失っていません。
この「逆方向の動き」の背景には、中国市場の見方そのものの違いがあります。
そしてその違いは、大企業の話であると同時に個人セラーが越境ECで生き残れるかどうかに直結する発想でもあります。
逃げる日本、増資するドイツ

JETROの「2023年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)」(2023年11月公表)では、日本の対中直接投資が前年比15.3%減少したことが記録されています。同レポートが参照するfDi Marketsデータベースによると、2023年の中国への対外投資件数上位5カ国・地域に日本の名前はなく、米国・ドイツ・英国・香港・フランスが並んでいます。
一方でドイツ企業を見ると、規模の大きさに驚きます。
化学大手BASFは広東省湛江に総額100億ユーロ超(約1.6兆円)の統合生産拠点を2022年に着工。生産から研究開発まで一体化した中国最大級の投資案件です。BMWは中国・瀋陽の合弁工場に加え、EVプラットフォーム「ノイエ・クラッセ」の開発を現地主導で進めるべく上海のR&D拠点を継続的に拡張しており、グループ全体の研究開発費は2024年に90億7,800万ユーロと過去最高を更新しました。
なぜ日本企業はこれほど慎重になり、ドイツ企業はこれほど積極的なのでしょうか。
この問いに対する背景として、日本企業が対中投資を減らし続けている構造的な理由も参照してください。
中国を「工場」ではなく「実験場」として見るロジック
ドイツ企業の投資先を分析すると、「工場の拡張」ではないことがわかります。BMWもBASFも、重点を置くのは研究開発・デジタル化・自動化です。
BMWが上海に開設したR&D拠点で取り組むのは、EVの現地向け仕様開発だけではありません。中国のユーザーが日常的に使うコネクテッド技術や自動運転機能を、世界で最もデジタルリテラシーの高いとされる中国市場で試し、磨くことです。
BASFの湛江拠点も「安く作る」ための工場ではなく、デジタル技術を活用したスマート生産の実証拠点として設計されています。
ドイツ企業の共通した発想はこうです。
「中国は世界で最も競争が激しく、変化が速い市場だ。ここで製品と技術を磨けば、世界のどこでも通用するものができる」
──中国を「安く作る場所」としてではなく「最強の競合と戦ってレベルを上げる場所」として捉えているのです。
翻って日本企業の多くは「安く仕入れて売る」という旧来のモデルで中国と向き合い続けました。そのモデルが機能しなくなった今、出口を失っている構図があります。
日本と中国の意思決定スピードの差については、日本人が「検討します」と言っている間に中国では何が起きているかでより詳しく整理しています。
「守り」だけでも「攻め」だけでも生き残れない
もちろん、中国市場にリスクがないわけではありません。知的財産の侵害リスク、地政学的な不確実性、規制の突然の変化——これらは現実の問題として存在します。BASFやBMWのような大企業でさえ、現地の法務・コンプライアンス体制に多額の資源を投じています。
JETROの「2023年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」はこの点を明確に指摘しています。リスクをコントロールしながら守りを固め、同時に中国拠点が担う役割を最大限発揮できる体制を整える——この「守攻の両立」が喫緊の課題だと記録されています。
つまりドイツ企業が示しているのは楽観論ではなく、リスクを正確に把握した上で「それでも入る理由がある」と判断できる戦略的な根拠です。根拠なき楽観でも、根拠なき悲観でもない——その態度が、ドイツ企業を中国市場に留まらせています。
大企業の戦略を、個人レベルに翻訳する

ここまで読んで「大企業の話で自分には関係ない」と感じた方がいれば少し待ってください。BASFとBMWがやっていることの本質は、実は規模とは無関係です。
「競争の激しい市場に入って自分の商品・技術を磨く」
「利益を出せない市場を見切って、自分が優位性を持てる市場に集中する」
——この2つの判断軸は、個人セラーが越境ECのプラットフォームを選ぶときにも、そのまま使えます。
私が20年の貿易実務で一貫して見てきたのは、「どこで戦うか」を間違えた人が消えていく場面でした。
優れた商品を持ちながら、競合が密集した市場に無策で入り、価格を削りながら撤退していく——このパターンは、個人セラーでも中小メーカーでも構造的に同じです。ドイツ企業が中国市場を「最強の競合がいる実験場」として使えるのは、参入前に自社の強みと市場の構造を丁寧に照合したからです。
個人セラーにとっての「守攻の両立」とは何かを具体的に言えば、アカウントリスクの管理(守り)と、差別化できる商品・販路の開拓(攻め)を同時に進める姿勢です。リスクを恐れて動きを止めることも、リスクを無視して突進することも、どちらも正解ではありません。
越境ECで長期的に生き残るセラーがどのようにリスク管理をしているかについては、越境ECで長期生存するセラーのリスク管理の実態で詳しく解説しています。
まとめ:データと戦略に基づいた判断が、長く続く条件になる
中国市場のフェーズは変わりました。
「参入すれば儲かる場所」から「戦略と準備なしでは生き残れない市場」へ。日本企業の撤退とドイツ企業の増資は、同じ現実を前にした「見方の違い」から来ています。
どちらが正しいかは、個々の企業・個人の強みと戦略によって変わります。
重要なのは感情や雰囲気ではなく、データと自分の強みの照合から判断を下すことです。
その姿勢は大企業であっても個人セラーであっても変わりません。
まず越境ECで長く利益を出すための基本的な構造を理解したい方は、こちらをあわせてお読みください。
→ 個人でもできる越境ECの正規仕入れルートとは|転売屋から正規販売店になる方法
関連記事
- 日本企業が対中投資を減らし続けている理由
- 日本人が「検討します」と言っている間に中国では何が起きているか
- 個人プレイヤーが「中国市場」を避けるべき絶対的な理由
- 個人でもできる越境ECの正規仕入れルートとは|転売屋から正規販売店になる方法
- 越境ECで個人が失敗する3つの落とし穴|商品選定・価格設定・認知獲得の壁

